カルチャー
2018.01.09(Tue)

【フクオカhumanpedia】第19回「心地いい暮らしのワンシーンに似合うものを」

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「フクオカhumanpedia」は、古くから商都として栄えてきた福岡の街を支えた、歴史上の著名な人物や、知る人ぞ知る職人たち、現在福岡の各分野で活躍している人々を紹介する連載コラムです。

第19回目に登場するのは、大手門にあるギャラリーショップ「LIFE IN THE GOODS.」で陶磁器や木工、紙小物をセレクトする羽田裕行さん。2013年のオープン以来、手仕事を求める大人の支持を受け、ギャラリー兼ショップのスタイルで定評を得ています。

暮らしに馴染む手仕事を

見て美しく、使って心地よいもの。この店にはそんな手仕事が溢れています。ディスプレイされている時点で「このカップで淹れたてのコーヒーを飲もう」「このお皿に焼きたてパンを乗せよう」なんて、すでに自分の家で使う情景がぼんやり思い浮かぶこともめずらしくありません。

美しいものを見つけてくるセンスは、「小さい頃に見ていた原風景に由来しているかもしれません」と話す羽田さん。小学校までは長崎県内で過ごしたそうで、坂があったり、海が近かったり、自然がたくさんあったり、そんな長崎の美しい景色が記憶の断片として今も時々ふわりと胸に蘇り、美のものさしになってくれるそう。「直感的にしっくりくるものを集めていますが、それは頭の中に眠る記憶のかけらたちに触れ、どこかへ回帰していくような感覚に近いかもしれません」。

感性を磨いた大学時代と書店員としての日々

中学生の頃、家族と一緒に福岡に移り住んだ羽田さん。高校生ぐらいから自己の表現について深く思索する時期があったそうです。

そんな誰もが「あるある」と共感して胸がうずきそうな経験をして、大学生の頃にのめり込んだのはファッションや音楽でした。DJを始めたり、感性を磨いた4年間だったそうです。「今振り返ると『学生なのに』と思いますが、毎日岩田屋に寄り道して、『マルタンマルジェラ』とか『ドリス ヴァン ノッテン』とか『ヨウジヤマモト』とか、ショップに行ってはスタッフさんと仲良くなっていろんな話をしていました。いつも買えるわけではありませんが、とにかく全財産を服につぎ込む感じで。その頃からいいなと思ったものをとことん追求するという今に通じるものはあったのかもしれません」と振り返ります。

卒業後、「紀伊國屋書店」に10年ほど勤務。「本屋さんで働いていると『本好きですか?』とよく聞かれますが、読書家というわけではないんです。どちらかといえば、紙の匂いや手触りやめくる時の心地よい感覚が好きで、それは今も変わりません。

あとこれも今に通じますが、写真やグラフィックデザインとか、そういう視覚的な感覚を刺激されるものが好きでしたね。経済学部出身だったので経済の棚を任されたり、いろいろ経験させてもらったんですが、特に大変だったのは雑誌担当でした。早朝から18時過ぎまで勤務することもしばしばで、複数の雑誌の発売が重なる日などは、開店までに陳列を終えていなければならないので特にキツかったです」と苦労話を笑い飛ばしながら話してくれます。

ヨーロッパを旅して感じた「肩肘張らずに生きる心地よさ」

そんな毎日に大きな不満はなかったそうですが、29歳の頃、音楽がきっかけで、渡欧をすることを決意し、1度退職しました。「いつかは行きたいと思っていた」ヨーロッパに50日間、9カ国11都市を周遊。これが大きなターニングポイントになったと言います。

「もちろん、ちょっとずつだからヨーロッパの全部を見たわけではありませんが、日本と違うムードがあったんです。景色や文化が違うのは当たり前ですし、それはそれでもちろん新鮮でしたが、何より印象的だったのは、どの国も人々が肩肘張らずに暮らしている姿でした。みんな自分に正直に生きてるなと」と晴れやかな表情で当時に思いを馳せます。

このヨーロッパでの経験は大きなターニングポイントになったと言います。「ヨーロッパの人たちの生き方を見て、自分がこの先どんな生き方をしたいのか、何をしたいのか、自分らしく生きるとは何なのかということを、それまで以上に考えるきっかけになりました。また、それまでは音楽やファッションなど、どちらかといえば外部への表現という側面を持つものに価値を見出していたのが、30代になり、じわじわと家の中のものという内的なものにも価値を感じるようになり、生活の中で使うものが美しいと心も穏やかになるし、暮らしが豊かに彩られていくんだなぁとしみじみ感じたんです。いくらいい服を着て外に出ても、家の中に何のこだわりもないと美意識のバランスが偏ってしまうというか」。

その頃から、器や家具など家の中のものに心を傾けていった羽田さん。大学時代の洋服同様、最初は感覚がそそられるものをとにかくたくさん買っては失敗もして、だんだん本当にいいものがわかるようになっていったと言います。「気に入って買うんですが、使わなくなるものってあるんですよね。それをなぜ使わないのかと考えるようになりました。そしていろいろと削ぎ落としていって、素朴だったり、シンプルに美しいものが良い、手仕事がしっくりくるという今の価値観にだんだんたどり着きました」。

暮らしを豊かにするものを集めた店を

30代になり少しずつ、家の中にスポットを当てるようになった羽田さん。そういうものを集めたいと思い始めてもうひとつ気付いたことが、欲しいと思った品を販売している店というのが福岡にはあまりなかったということでした。

「当時30代前半で、生き方についても考えていた頃で、自分が欲しいものを販売しているお店が無いから、じゃあ自分が販売する側になろうと一念発起しました」。思いついてから約1年、付き合いたい作家さんにコンタクトを取り、開店準備を進め、2013年9月に「LIFE IN THE GOODS.」をオープン。当初は、生活用品店としてスタートした店も内容が少しずつ変化しながら、現在はギャラリーショップとして運営しています。

店にとってのターニングポイントは2015年でした。通常時はいろんな作家さんの作品をセレクトして置いていますが、初めて1人の作家さんにスポットを当てて、期間限定で店自体をその作家さんの色に染める試みをしました。その人に合わせて店を丸ごと編集し直すという経験をして「新しいスタイルを見つけた」と感じた羽田さん。

ギャラリーショップというスタイルへ

それ以降も不定期で特定の作家さんにフィーチャーして店のディスプレイごと変えていくというスタイルを続けています。「テーマに合わせて空間を編集していく作業は僕自身もとても楽しいですし、作家さんと一緒に作っていく分、距離や関係性も密になっていくのでそこも刺激になります」。来るたびに店の表情が変わっていくので、リピーターの人の目にも新鮮な印象に映ります。

店を訪れるとまず目に飛び込んでくるのは、大きな窓から見える福岡城。桜の季節はここで花見ができる出張喫茶が催されたりもします。そして店の中を歩いていて気づくのが、作家さんに光を当ててはいつつも、作家さんのプロフィールを説明し過ぎることはなく、ただ作品だけを潔く並べていることです。

「先入観を持って作品を見てもらいたくはないので、あくまでもお客様が美しいと感じたものを手に取ってもらって、触った感じも好きだなと思えたらいいかなと思っています。もちろん、聞いてくださったらその作家さんについてのお話をもっとお伝えすることもできます。ただ、あくまでも頭で考えるのではなく、感覚を大切にしながら楽しんでもらえたら」と手仕事ならではの探す楽しさ・出会う喜びを教えてくれました。

福岡の観光名所を歩く途中に立ち寄って、自分や大切な誰かのために選ぶ時間を楽しんでみてください。

<店舗情報>
「LIFE IN THE GOODS.」
住所:福岡市中央区大手門1-8-11 サンフルノビル2F
電話番号:092-791-1140
営業時間:12:00〜20:00
店休日:火曜休
HP:http://lifeinthegoods.jp

<profile>
羽田 裕行 さん
長崎県生まれ、中学校から家族で福岡に移り住み、その後もずっと福岡在住。大学卒業後は書店に勤め、2013年に一念発起し、「LIFE IN THE GOODS.」の店主に。2015年頃よりギャラリーショップとして運営し始め、特定の作家にフォーカスした展覧会も随時行う。不定期でDJとしてイベント出演などもあり。

●掲載内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。
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