カルチャー
2017.01.17(Tue)

【フクオカhumanpedia】第7回「お気に入りの器で料理やお酒をもっとおいしく」

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「フクオカhumanpedia」は、古くから商都として栄えてきた福岡の街を支えた、歴史上の著名な人物や、知る人ぞ知る職人たち、現在福岡の各分野で活躍している人々を紹介する連載コラムです。

第7回目に登場するのは、酒器・食器「Kujima」の店主・久島剛さん。

薬院駅から少し南へ歩いて数分、白金の交差点に、2016年4月にオープンした陶磁器店があります。器とひとくちに言ってもいろんな使い方がありますが、このお店で扱うのは酒器・食器など、日常的に使えるものばかり。お酒を飲むとき、食事をいただくとき、器が自分の気に入ったものだったり、中に入れるものにふさわしいものだと、その時間はよりおいしく、またより豊かに感じられるというのは、誰しも実感するのではないでしょうか。

編集者として街と読者の架け橋に

店主の久島さんが、このお店を開くまでの経歴は少し意外な道のりで、大学卒業後は故郷でもある熊本で出版社に勤務していたそうです。久島さんが社会に出た頃は、熊本や福岡はフリーペーパーやローカル誌の戦国時代と言っても過言ではないほどたくさんの雑誌が溢れていて、それぞれ読者を振り向かせるために、どんな情報をどんな切り口で掲載するか試行錯誤し、若い編集者ならではのみずみずしい感性を生かして、街を走り回り、挑戦的な企画も厭わず、形にしていたそうです。

入社後数年すると久島さんは編集長に着任。後輩たちを引っ張りながら、雑誌のアイデンティティを打ち出し、注目を集める企画や誌面づくりに奔走します。「たった数人で150ページぐらいの雑誌をつくるっていう今考えたら相当パワーのいる仕事だったんですよね。眠れないぐらい忙しい日々で、もうあんまり記憶に残ってないほどです」と振り返る久島さん。

でもその頃に得たのは、熊本の街でパワフルに働いていた、感度が高い同年代の人たちとのつながり。街があってこそのタウン誌をつくり、タウン誌のおかげでまた街が元気になるという好循環が生まれ、街との距離がどんどん近くなっていくのを感じながら駆け抜けた数年間。その後、福岡や沖縄でも新雑誌の立ち上げに関わったり、街と人をつなげる架け橋としての雑誌を編集する日々が続きました。

感動や発見を伝える自分発信のメディアが欲しくて

少しずつ時代が変わり、福岡や熊本で雑誌が減りはじめ、久島さんのいた会社でも廃刊する雑誌が相次ぎ、図らずもターニングポイントを迎えます。「30歳前後でこれからの人生を考えた時にちょっと新しいことに挑戦しようかなという気持ちもあり、福岡でフリーランスの編集者・ライターとして活動しはじめることにしたんです」。それまですでに人脈や信頼を築いていた熊本ではなく、新天地での挑戦は不安と期待が入り混じったものでした。

幸い福岡でも仕事の依頼が途切れることはなく、編集者・ライターとしての仕事も安定してきた頃、胸の中でまた別の挑戦意欲が顔を出しました。「この仕事も専門職だし、もちろんやりがいもあるのですが、何年続けてもある日突然その仕事が終わってしまうこともあるし、自分次第ではない部分が大きい仕事だなと思って。私自身は子どもの頃から新聞をつくったりしていたような子で、雑誌の世界に入るときにも強く思っていたことですが、自分の好きなものやいいと思えるものを人に伝えていくメディアが欲しいなと思っていたんです」。

メディアとは、雑誌なのか、ウェブなのか、はたまたお店なのか、しばらく久島さんは模索していました。とにかく興味を持ったものは挑戦してみようといろいろ試していた中で陶芸に出会ったそうです。「最初は体験だけのつもりだったんですが、とにかく奥が深くておもしろくて、今も続けているんです。元来ハマるとその世界のことをもっと知りたくなって貪欲に調べる方なんですけど、窯元とか作家さんとかを知れば知るほど感動や発見があったんです。それで『これだ!』と」。

旅も器選びも刺激や発見との出会いが大事

自身のつくった器は置かないのか尋ねると、「自分自身が陶芸をしているからこそプロの偉大さってわかるんですよ。プロがつくるようなフォルムも絵付けも、あれだけもクオリティの高いものをつくるのって、やっぱりアマチュアでは難しくて。運良く100個に1個はできたとしてもコンスタントにいいものを生み出す力というのは半端じゃないですね。だからその大変さを忘れないためにもずっと陶芸を続けているんですよ」。作家さんやものづくりへの真摯な一面が垣間見えました。

実際に店を開こうと思ってからも編集やライターとしての仕事と並行しながらで、3年ほどかかったそうです。空いた時間に窯元や作家さんの元を訪れ、気に入るものを探し、作り手と話をして、惚れ込んだら店に置かせて欲しいとお願いをする、その繰り返しをしてだんだんと出店準備を整えていきました。

店に並ぶのは、九州の作家や沖縄・関東・アメリカの作家さんの手によるもの。テイストもデザインもバラバラだけど、きちんと作家さんの個性が表に出ています。久島さんの編集者としてのキャリアを生かして選んでいて、共通項は「食卓で使いたくなるようなサイズ感や重さのもの」「若手陶芸家が手がけたもの」。

10人前後の作家さんの作品を少しずつセレクトしてまるでギャラリーのように大切に大切にディスプレイしていますが、これから店の成長とともに扱う作家さんの数も増やしていきたいという願いも。「僕が器を探しに行く時って旅をしているのと同じで、いつも住んでいる場所とは違う場所に行き、見慣れない景色と文化と空気に触れ、そこで出会った作家さんやものとの出会いで自分が何を感じられるかをとても大事にしています。この店に来てくれる方と器の出会いにも何かしら小さな感動や惹かれ合うものがあったらいいなと思いながらお待ちしています」。旅先で選んだ器はその時の感動を思い出させてくれるものだから、お土産探しにぜひ寄り道してほしい店のひとつです。

<店舗情報>
酒器・食器「Kujima」
住所:福岡市中央区白金1-10-5 白金町1023A-21号
電話番号:092-753-7463
営業時間:13:00~20:00
休館日:土・日・月のみ営業
HP:http://kujima.com
Instagram:https://www.instagram.com/kujima_desu/
Facebookページ:https://www.facebook.com/utsuwa.kujima/?fref=ts

<profile>
久島 剛 さん
酒器・食器「Kujima」・店主。熊本出身で、福岡の大学を卒業後、熊本で雑誌制作の仕事に関わる。その後、異動を機に再び福岡に移り住み、会社を退職後は、フリーランスの編集・ライターとして活躍。本業と並行し、数年がかりで計画した陶磁器店「Kujima」を出店。それまでの編集センスを生かして、ここでしか買えない器や若手の作家の発掘に力を入れ、ぬくもりや背景が感じられる陶磁器店へと育てている最中。

●掲載内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。
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