カルチャー
2017.12.12(Tue)

【フクオカhumanpedia】第18回「触れるたびに幸せを感じられるようなデザインを」

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「フクオカhumanpedia」は、古くから商都として栄えてきた福岡の街を支えた、歴史上の著名な人物や、知る人ぞ知る職人たち、現在福岡の各分野で活躍している人々を紹介する連載コラムです。

第18回目に登場するのは、「HIGHTIDE」で文房具や雑貨のデザイナーを務める御厨豊裕さん。2017年には直営ショップのオープンや、人気のアパレルブランドとのコラボなど、活躍の幅を広げながら続々と話題の商品を生み出し続けています。

デザインが主役のステーショナリーブランドとの出会い

音楽やファッションなどのカルチャーが好きな、感度の高い人に人気の文房具ブランド「HIGHTIDE」。1冊の手帳にはじまり、今や毎シーズン数え切れないほどの新作を生み出し、全国各地の有名雑貨店で買える同ブランドですが、実は福岡から生まれたんです。文房具や手帳を単なる道具ではなく、ファッションの一部と捉え、デザイン性に優れたアイテムには、クリエイターをはじめ、多くのファンがいます。

そんな「HIGHTIDE」のデザイナーである御厨さんが同ブランドと出会ったのは学生時代でした。音楽やファッションや雑誌が好きで将来はデザインの仕事に携わりたいと考えていた頃、学校の紹介で「HIGHTIDE」のインターンシップに参加することに。

「当時は今ほどWeb業界がメジャーではなく、学校でもグラフィックデザインの勉強をしていましたから、何となくグラフィックデザイナーかエディトリアルデザイナーになると思っていましたが、『HIGHTIDE』の現場に行くようになってこんな仕事もあるんだと目からウロコが落ちました。立体的なプロダクトの世界に触れて印刷技術や素材の勉強にもなり、毎日がとても新鮮でした」。運良く、御厨さんの卒業と同時に、同社が事業拡大のためデザイナーを募集することになり、迷わず入社を決意。

「自分が使いたい」と思えるものを形にしてロングセラーに

これまで仕事をしていて大変だったことを尋ねると「新人の頃は今よりもっと試行錯誤して、1商品作るのに山のような案を出していましたし、きっとそれなりに大変だったとは思いますが、今となっては楽しさの方が大きくて苦労があまり思い出せないんです。反面、うれしいポイントややりがいは当時も今も変わらなくて、製造を手伝ってくださる方々の手によって自分のデザインが形になり、それが売り場で並んでいるところを見るのがうれしくて、手に取ってくださる方を見ると今でも感動します」と顔をほころばせます。

デザインをするにあたって心がけていることは、「流行に左右されたり、奇をてらい過ぎず、自分が使いたいと思えるものを作ること」だそう。「僕自身、男性だからというのもあるのか華やかなものよりシンプルなデザインが好きなんです。日常使いするアイテムだからこそ気に入ったものだけを長く使い続けたくて」。同じことを考える人は多いようで、御厨さんのデザインしたアイテムにはロングセラー商品が多いそう。

他業種から得たヒントを文房具に落とし込み、唯一無二のアイデアに

デザイナー人生も約15年、ターニングポイントは何度かあったそうです。例えば、「HIGHTIDE」の中でも人気のシリーズである「nahe(ネーエ)」。ドイツ語で「そばに」という意味の名前通り、いつも身近に使ってもらえるものを提案しています。デザイン自体はシンプルながら、鮮やかな色使いや独特の素材感でビジネスにもカジュアルにもマッチする、使う人を飽きさせない世界観が魅力です。

「整理・収納をキーワードに、文房具だけでなくポーチなどのキャリングツールを数多く展開しています。いちばん長く販売しているのはジェネラルパーパスケースというキャリングケースですね」。エッジの効いたデザインと写真映えするカラーリングが幅広い年代に受け、勉強に励む女子高生からビジネスシーンで愛用するサラリーマンまで、多くの人が使っている様子をSNSでアップし、それがまた評判を呼びました。

「他にもターポリン素材のタープポーチはアウトドアブランドからインスパイアされて作りました。アウトドアブランドのアウターなどで防水性を高めるため、縫製を行わず、溶着で仕上げる加工があるんです。布製ではなく、ハリのある固めの素材を使い、ファスナー部分も含めすべて縫製をせずに仕上げています」。

文房具といえば、ペンやノート、付箋紙など、アイテムは大体決まっているのかと思いきや、作るものの幅や素材はどんどん広がっているそうです。「ジェネラルパーパスケースやタープポーチは自分にとっても転機でした。デザインがシンプルなほど、素材や加工へのこだわりが商品の個性そのものになります。だから、休日に洋服や雑貨を見ていても、つい素材や加工を観察してしまいます」。普段からアンテナを張って観察していれば、一見仕事と関係ないような日常風景もヒントになるというからさすがです。

人気ブランドとのコラボで活躍の幅はますます広く

オリジナルブランドの文房具や雑貨だけでなく、コラボレーションも得意分野だそう。「福岡はコーヒーがおいしい街として全国的にも有名になりつつありますが、中でもコーヒー通の間で人気の『NO COFFEE』さんが『nahe』のガセットポーチに興味を持ってくださって、そのご縁から『NO COFFEE』さんとのコラボポーチを作らせていただきました」。

その他にもコラボ案件は多く、イラストレーターのNoritakeさんのアートブックや数々のアパレルブランドとのコラボアイテム、航空会社のカレンダーの依頼を受けたことも。特に印象深かったのは「学生時代から好きだったアパレルブランドから別注のお声掛けをいただいたときは、言葉にできない感動で思わず震えました」と熱をのぞかせます。

ショップのオープンも成長への大きな転機に

ブランドにとっても大きな挑戦となったショップのオープン、これにも御厨さんがグラフィック周りで参加。「デザイナーとしてプロダクトを生み出すことにはある程度慣れていましたが、ショップのオープンに際してロゴやDM、ショッパーなど開店ツール一式をデザインさせてもらいました。このプロジェクトでは、僕が新人だった頃に上司だった人が監修に入ってくださって、久しぶりに一緒に組ませてもらったので、いろんな意味で初心に戻り、緊張感を持って仕事をすることができました。文房具や雑貨も気持ちを込めて作っていますが、店の立ち上げに関わったのは初めてで感慨深かったです。ずっと続いていくものですし、いろんな個性を持ったブランドやアイテムを包み込んでいく大きなものなので作っていて背筋が伸びる思いでした」と振り返ります。

ショップは、2017年2月のオープン以来、多くの反響があり、福岡の人はもちろん、観光客も多く訪れるそう。オリジナルブランドやセレクトで扱う「FIELD NOTES」、Tシャツやバッグなどアパレルも展開していますが、やはり皆さんのお目当ては直営店ならではの見どころ。例えば、コーヒーが楽しめる「KIOSK」やノートや手帳をカスタマイズできる「カキモリ」というワークショップスペース。「カキモリ」は東京以外ではこのショップでしか利用できないサービスとあって、県外や海外からわざわざ来る人も少なくないそうです。既存の文房具店のイメージとは一線を画す、自由で長居したくなるような居心地のいい空間に仕上がっています。

御厨さんはこのビルの3階でデザインをしているので時々ショップを訪れます。「今までは自分の手がけた商品を売り場で見るためにわざわざ卸先に出向いていましたが、今は見ようと思えばすぐに見られます。それはデザイナーとしてはうれしい限りですね。こういう方が使ってくださってるんだと思い浮かべながらデザインできるのは幸せなことですし、刺激にもなります。皆さんの反応を見ながら、日々改善を重ねて、僕らも店も成長できているんです」。

年末年始になると、ブランドの看板でもある手帳を求めてやってくる方が多いそう。2018年1月はじまりの手帳は296種類もあるそうです。加えて、2017年9月にオープンした「六本松蔦屋書店」内のCORNERSHOPでも御厨さんの手がけた商品や企画に出会えます。書店という場所柄もあってか、ブック関連のグッズやメガネケースなど幅広いラインナップで、「HIGHTIDE STORE」とはまた違った魅力があります。2つの店舗を見比べてみるのも楽しみ方の1つとしておすすめです。

■イベント「making order note by kakimori」
2017年12/18(月)~25(月) 10:00~18:00
東京蔵前にある「カキモリ」のオーダーノートの受注会を、六本松蔦屋書店内のギャラリースペースで行います。約50種類の表紙、様々なフォーマットの中紙の組み合わせで、世界に1つのオリジナルノートを作ってみませんか?

<店舗情報>
「HIGHTIDE STORE」
住所:福岡市中央区白金1-8-28
電話番号:092-533-0338
HP:http://hightide.co.jp/

<profile>
御厨 豊裕 さん
佐賀県生まれ、高校卒業後、熊本の大学に進学したものの、デザインの道に進みたいと考え、福岡のデザイン専門学校に入学。在学中から「HIGHTIDE」にインターンとして通い、そのまま入社し、今に至る。「HIGHTIDE」ブランドはもちろん、同社人気のシリーズ「nahe」やアパレルブランドとのコラボなど数多く手がける。

●掲載内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。
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