カルチャー
2018.05.10(Thu)

【フクオカhumanpedia】第23回「人の心に光を照らす普遍的なジュエリーを」

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「フクオカhumanpedia」は、古くから商都として栄えてきた福岡の街を支えた、歴史上の著名な人物や、知る人ぞ知る職人たち、現在福岡の各分野で活躍している人々を紹介する連載コラムです。

第22回目に登場するのは、博多駅のそばにあるジュエリーショップ「SENTE」のオーナー・太田貴之さん。ガラスを使ったジュエリーを生み出し、今や福岡にとどまらず、日本全国・世界にも視野を広げています。

飽きがこず、どんなファッションやシチュエーションにも似合うジュエリーを見つけることって意外と難しいことかもしれません。この「SENTE」のグラスジュエリーは、まさにそんな存在になれるアイテムです。

ハワイの景色に背中を押されて

佐賀県・武雄に生まれた太田さんが福岡で暮らすようになったのは30代になってからでした。元来手先が器用で何かを作ることが好きだった太田さんは、高校を卒業した後、料理を学ぶ学校へと進みました。いろいろ学んだ中でも特に興味があった和食の料理人の職に就き、数年経験を積みます。しかし、20代中盤の頃、少し立ち止まって自分の人生について考えるタイミングがあり、その時にお姉さんと出かけたハワイ旅行が転機になりました。「この先、どんな風に生きていこうかなと自分と向き合っていると、無意識に少し内向きになっていたようで、それに気づいた姉が視野を広げてくれたんです。ほんの1週間ぐらいでしたが、ハワイの何でもない景色のひとつ1つがいい刺激をくれました」。

その旅の途中で、ガラスのパフォーマンスを見て、ガラスでできたカメのネックレスに心惹かれた太田さん。「特にガラスやカメが好きということでもなかったんですけど、そのタイミングで見たせいもあってか、とっても美しく見えました。それで姉にお金を借りて(笑)、買って帰ったんです」。帰国後も何の気なしにそれを毎日眺めては、ハワイの景色を思い出し、少しずつ気持ちも前向きになっていった太田さん。「本当に何となくですが、自分はまた物を作りたいという気持ちが湧き上がっていることを感じました」。

アートのパワーに突き動かされた瞬間

ほんの少し将来へのヒントが見えた気がしたものの、何を作るのか、どこで誰とどんな風に、そうした具体的なビジョンが固まらず、一旦はアルバイトをしながらお金を貯めることを考えたそうです。そして20代も終わろうかという頃、アーティスト活動をしている友人から「福岡の百貨店で個展をやるんだ」と聞いて手伝いに行きました。

思わぬタイミングで手伝ったこの個展もまたターニングポイントになりました。「友人の絵を手に取ったあるご家族のお父さんが、絵を見て感動して震えていらっしゃったんです。『今、仕事があんまりうまくいってなくてちょっと落ち込んでいたんだけど、この絵を毎日見ていたら力をもらえそうな気がする』とおっしゃって。美しい作品には人を元気にするだけの力があるということを目の当たりにして、僕自身も震えました」。

その個展を機に、その友人のサポートをするためマネジメントを買って出たという太田さん。「アーティストの魅力を世に発信したり、適正な形で評価してもらいたい」という強い気持ちが膨らんでいきました。今もこのマネジメントを続けながら、アーティストやアートに対する一般世間での見方や評価を適正にしていくにはどうしたらいいのだろうという問題意識を持ち続けているそうです。

徐々に見えてきた自分の道筋

さまざまな経験を積み重ねた20代を経て、30代に突入しようかというあたりで、あらためて自分の行く先を考えた太田さん。「手を動かしてものづくりがしたい、自分にしか作れないものを。アーティストの価値も上げていきたい。マネジメントもしつつ、自分自身もアーティストとして成長していこう」、そんな風に考え方の軸をすっきりさせました。

貴金属やガラスの勉強をしようと書籍を読みあさったり、どの素材をどうしたらどうなるのかという表現の幅を広げたり、太田さんは急速にインプットを進めます。「知識やテクニックも大切ですが、この時期にいちばん突き詰めて考えたのは『自分は何を美しいと感じるか』という価値観についてでした。流行に左右されるようなものではなく、普遍的な美しさというものについて考えました。最初に定める軸が何より大事だと直感的にわかっていたのです」。

料理からジュエリー、ものを作る点は同じとはいえ、大きな転身で不安はなかったかと尋ねると「でも共通点も多いんですよ。素材が違うだけで、それに向き合う点は一緒。両手を使い、効率良く段取りを組んで、どの素材に何をしたらどう変わるかということを知り、頭の中でイメージした形に近づけていくという道のりも似ています」と教えてくれました。

夢だったアトリエ兼ギャラリーをオープン

最初はマンションの角部屋を借りて、合板を張った製作コーナーで日がな1日試行錯誤を重ね、ガラスと向き合うこともあったそう。「とにかく透明度にこだわりました。クリアで、美しく輝いて、それでいてできるだけ割れにくく、修理ができるもの。毎日身に着けるものだから、実用的な側面も無視はできませんでした」。

ブランドを立ち上げて数年、ショップは持たず、アトリエで製作したものをPOP UP SHOPで売るというスタイルでした。グラスにアロマを入れてほんのり香るアロマネックレスがひょんなことから注目を集め、注文が相次いだこともありました。「期間限定でいろんなところへ出向いて販売したり、お目にかかったこともない方に自分たちの作品を知ってもらうことはとてもありがたいことです。今でもそれは変わりません。しかし、ブランドを開始した当初から私が思い描いてきたのは、作家が作っている様子が見られるアトリエ兼ギャラリーという形の見せ方でした」。

今でも東京・パリなど各地でのPOP UP SHOPは続けていますが、2018年2月、ついに太田さんの夢が叶い、博多駅の近くに路面店をオープンさせることができました。

「SENTE」は、“千の手”という意味と、フランス語で「感じる」という意味を持ちます。「僕らが作るものに型はなく、すべて手作り。集中力を要するので毎日大量生産というわけにもいきません。安いものではないことを自覚しているので、だからこそ作っているところを見ていただける環境になったことを誇らしく思います」。

「SENTE」のグラスジュエリーは、自然の重力に誘われて、雫のように丸みを帯びた形のものが多く、普遍的な美しさを醸しています。まるでアート作品のようなジュエリー。凛としたその表情は、着けている人をも美しく見せてくれます。

POP UP SHOPは不定期で各地に展開していますが、ギャラリー&アトリエは福岡だけ。福岡に暮らす人にはもちろん、県外海外から旅に来た折に買っていく人も少なくありません。太田さん自身もそうだったように非日常の景色や刺激の中で出会ったひと粒の「SENTE」のジュエリーがその人にとって唯一無二の宝物になるかもしれません。

<店舗情報>
「SENTE Gallery&Atelier」
電話番号:092-985-5400
住所:福岡市博多区博多駅前1-7-9
営業時間:11:00〜20:00
定休日:火曜休
HP:https://www.sente-pro.com/

<profile>
太田 貴之 さん
佐賀県生まれ。料理人の経験を経て、アーティストに転身。自身のブランド「SENTE」を立ち上げ、福岡を拠点に店を構える傍ら、1年の3分の1程度は、各地でPOP UP SHOPを展開している。ガラスを使った普遍的なジュエリーやアーティストのマネジメントを通じて、多くの人にアートの力を伝えていくことを目指している。

●掲載内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。
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