カルチャー
2016.12.08(Thu)

【フクオカhumanpedia】第6回「少年時代のワクワクをジュエリーに」

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「フクオカhumanpedia」は、古くから商都として栄えてきた福岡の街を支えた、歴史上の著名な人物や、知る人ぞ知る職人たち、現在福岡の各分野で活躍している人々を紹介する連載コラムです。

第6回目に登場するのは、「Decorate me」の代表・林裕之さん。その意外な経歴に迫ります。

天神からひと駅の薬院駅そばに、誰もが知っているわけではないけれど、ファンからはとてもとても愛されているジュエリーショップがあります。薬院新川沿いを歩き、あるビルの2階へ上がると、「Decorate me」という看板が。名前からして何ともかわいらしく、女ゴコロをくすぐる絶妙なネーミングだと思いませんか。

夢も仕事も世界観も手の中から生み出して

「Decorate me」は、アクセサリーとファッション小物のクリエイターチーム。オリジナルジュエリーブランドの「satela(サテラ)」と「a.g.t.a.m(アグタン)」を中心にアイテムを展開していて、基本は福岡ですが、時々全国のセレクトショップや百貨店に出したりもしています。オーナーであり店主でもある林裕之さんのものづくりに対する考え方は、「時代の枠にとらわれない。世代の枠にとらわれない。好みの枠にとらわれない。素敵な物はいろんな枠をこえて、楽しめるモノ。大切な思いを込めて作ったものは、人の心にも丁寧に伝わると信じてモノづくりをしています」とあります。その考えが伝わっているかのように、ファンの年齢層や雰囲気は十人十色。いろんな人の心を惹きつける稀有なブランドです。

林さんの経歴を聞いてちょっと驚いたのですが、意外なことにジュエリーデザイナーの前職は歯科技工士でした。専門学校に通い、国家試験を取って、就職したものの何か違和感があり、職を辞したそう。「そのころ、趣味で独学だったんですけどジュエリーをつくっていたんです。子どものころから彫刻とか造形が好きだったので、歯科技工士もジュエリーデザインもその延長線上にはあるんだと思います。手を動かす、というのは一生続けられるかもしれないなと思ってジュエリーデザイナーの工房に弟子入りしたのが21歳のときでした」。そこでは4年間修行を重ねます。オーダーメイドのジュエリーが多かったので、依頼に合わせていろんなものをつくらなくてはいけません。金属という素材を自由に操るためには知識や経験、技術が不可欠。そうした今につながる確かなものを身につけながら、自分自身のオリジナリティであるデザインの部分も静かに情熱を傾け続けたそうです。

少年のワクワクから生まれたジュエリーがいつしか天職に

2004年、工房にも籍を置きつつ、小さな自分だけのアトリエを構えたのがターニングポイントになりました。まだブランド名もつけていなくて、清川のリノベーションビルの1室を借りて、週の半分はそこにこもって作品づくり。自由な時間は気の向くままに飲み歩いたり、感性を刺激するセレクトショップをのぞいたり。そんなある日、行きつけのセレクトショップのオーナーが「林さんがつけてるジュエリー素敵、それうちに卸せない?」と声をかけてくれました。

「自分のブランドの展開計画も立てていませんでしたが、求められるならと少しずつ作品をその店に卸しはじめ、ブランド名「satela」もこのころつけたものです。まだ20代半ばですから、『これが一生の仕事』なんて覚悟はなくて。ただ自分のアトリエを持ち、作品を好きになってくれる人が応援してくれるという刺激が原動力だったのかも」と当時を振り返ります。感度の高い人がたくさん訪れるリノベーションビルにいたおかげで雑誌やテレビに取り上げられ、工房はいつしかショップとしても機能しはじめます。

林さんがつくりだす「satela」のジュエリーは、このころも今もサンゴや鳥など動植物をモチーフにした作品が多いんです。有機的な生命をかたどっているけれど、どこか無機質で何だかワクワクさせるものばかり。それを伝えると、「それはうれしいですね」と笑顔を見せてくれます。「僕が小学校高学年のころ、野原や自然に触れてとても刺激を受けていたというか、ワクワクしていたんです。その時の感覚をできるだけ再現して、見る人の想像を掻き立てたいというか。花をモチーフにするにしても『かわいい』ではなく、その植物の持つ『不思議さ』みたいなものを見せたくて。モチーフが優しいものばかりなので女性っぽいと言われることもありますが、実は少年っぽい感覚でつくっているんです」と話してくれました。

ジュエリーはかけがえのない思い出のそばにあるもの

「satela」が生まれて少し経ったころ、アクセサリーデザイナーの仲西さや香さんが手がける「a.g.t.a.m」と出会い、2つのブランドを基軸にした「Decorate me」を設立。2010年には今の場所に店舗を移転オープンし、お客さんが緊張せずに、作品のよさを感じられるような空間をつくりました。

このときに福岡から東京に移ることも考えなくもなかったという林さん。しかし、そうしなかった理由を尋ねると、「僕が今40歳手前なのですが、僕らはSNS第一世代という感じがするんですよ。mixiがあったり、ネットで友達が広がったり、イベントに行ったり、情報発信したりということに抵抗がない世代というか。だから福岡にいてもきちんとものづくりをしていれば、見てくれる人は全国にいるんじゃないかなと思いました。ビジネスとして拡大するよりは、知り合ったお客さんを喜ばせるものをつくり続けることが大事だなと再確認して。あと福岡ならある程度の都心にそこそこの広さの快適なアトリエを持てるけれど、東京だとそうは行かない気がします」と福岡だからこそのコンパクトさも分析。

拠点は福岡でも全国に毎年呼んでくれる店があります。この時期は関東、この時期は関西、この時期は九州などと旅をしながら待ってくれているお客さんのところに新作を届けるのが何よりの幸せ、と語る林さん。

最近は女優さんやタレントさんにも「Decorate me」のファンが増え、ドラマや番組で着用されたり、有名ファッション誌で取り上げられる機会も多くなりました。「憧れだった第一線で活躍するファッションデザイナーさんとのコラボだったり、刺激的な経験もさせてもらっています。だけどやっぱり原点は大切で、一人で来てくれていたお客さんが彼氏を連れてきてプレゼントのジュエリーをもらったり、その数年後には2人で結婚指輪をつくりにきたり、長くやっているとたくさんのアニバーサリーに立ち会えるんです。そういうときに大きな幸せを感じますね。ずっとこの仕事を続けたいなー」と日々を愛おしむように話してくれました。

アイデアのインプットのために旅をしたりもするのかと思いきや、アイデアソースは子どものころの記憶と日々お会いするお客さんだという林さん。福岡という街のほどよい都会感もクリエイティブにいい影響を与えているのかもしれません。みなさんも福岡への旅のついでに「Decorate me」に立ち寄って、自分へのご褒美を見に出かけてみませんか。毎年12月は冬のサテラ展も開催中です。

<店舗情報>
「Decorate me」
住所:福岡市中央区薬院3-3-8 嘉村ビル2F
電話番号:092-531-1212
営業時間:12:00~20:00
休館日:火(店内イベント中は無休)

[イベント予定]
◎装苑 presents アクセサリー蚤の市 2016年12月10・11日(土・日) at BA-TSU GALLERY(表参道)
◎冬のサテラ展 2016年12月17日(土)~29日(木)

<profile>
林裕之さん
株式会社デコレイト・ミー 代表取締役、ジュエリーブランド「satela」のデザイン担当。2004年、街のはずれに小さなアトリエを構え、ジュエリーの制作を開始。2006年にジュエリーブランド「satela」をスタート、同年アクセサリーブランド「a.g.t.a.m」を展開。少しずつ全国のセレクトショップや百貨店に商品を卸したり、期間限定出店をすることに。2008年には株式会社デコレイト・ミーを設立し、2010年に福岡市・薬院に直営店舗「Decorate me」をオープン。ファッション誌「装苑」に取り上げられたり、「Sally Scott」とのコラボレーションなど、話題を呼ぶトピックにも事欠かない。

●掲載内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。
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