カルチャー
2017.10.10(Tue)

【フクオカhumanpedia】第16回「古くから伝わる博多らしさを新しい形で」

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「フクオカhumanpedia」は、古くから商都として栄えてきた福岡の街を支えた、歴史上の著名な人物や、知る人ぞ知る職人たち、現在福岡の各分野で活躍している人々を紹介する連載コラムです。

第16回目に登場するのは、ハンドメイドのバッグを製造販売する「Karau」のオーナー・龍薗哲也さん。2016年秋に天神エリアに店を開いて以来、地元の人はもちろん、観光で福岡を訪れる県外や海外のゲストからも支持されています。

いいバッグとおいしいコーヒーに自信あり

福岡一の繁華街・天神の国体道路や渡辺通から脇道に入ったところ、あるビルの1階に木枠とガラスで作られた大きな扉の店があります。看板には「Karau」の文字。ここは、レザーと博多織の生地を使って作るハンドメイドバッグの店で、「からう」とは博多弁で背負うという意味なんです。

レンガや鉄や木を使った無骨ながらどこか温かい雰囲気の空間は、オーナーの龍薗さんの醸し出す雰囲気とも少し似ています。それもそのはず。「小学校からずっと仲のいい同級生がインテリアや空間の仕事をしていてここを作ってくれたんです」。龍薗さんをよく知る人が作っているからか、人とぴったりマッチしていて、どこかあたたかく包み込むような空気があり、初めて訪れてもつい長居してしまうようなとても居心地の良さなんです。

店舗兼龍薗さんの工房でもある店内には、バーカウンターが作りつけてあります。「買い物をする用事がなくてもちょっと立ち寄ってコーヒーを飲んで行ってもらえるようにカウンターを作ったんです。近くの人にはたまり場みたいにちょっとしゃべって行ってもらったり、待ち合わせの場所にしてもらっても大歓迎です。コーヒーは手が空いていれば私が豆を挽いて淹れますし、作業で手が離せない時は常連さんが自分で淹れています(笑)」。

導かれるようにバッグの世界へ入り、いつしかプロに

龍薗さんがバッグ業界に足を踏み入れたのは23歳の頃、「特にバッグの仕事をしたいと決めていたわけじゃなかったんですが、仕事を探していて就職情報誌で見つけた会社がたまたまバッグの卸問屋だったんです。福岡の百貨店に女性向けのハンドバッグの営業して、時々催事で女性にもみくちゃにされながらバッグの販売もしていました」と当時を振り返ります。

接客販売をしながら人間観察やバッグのトレンドや縫製の良し悪し、素材の耐久性などいろんなことを吸収していった20代。毎日がとにかく新鮮で目まぐるしいスピードで過ぎていきました。30歳を目前に控えた頃、その会社で出会った先輩に誘われ、新しい会社を立ち上げます。そこでは先輩が企画したバッグを形にするため、素材を選んだり、デザインを起こしたり、商品を製造する仕事に携わります。

「いわゆるアパレルやバッグの製造の専門の勉強をしていたわけではなかったので見よう見まねで独学の部分も大きかったんですが、前の会社での接客販売の経験が生かされていました。女性たちがバッグを選ぶ際に見ているポイントやどんなものが支持されるのかということは感覚的にわかっていたような気がします」。そこで10年ほどデザイナーを務めて、40代を目前にまた少し違った景色が見たくなり新しいステージへ。

「すぐに今の店を開いたわけではないんです。やはりバッグ関係の販売だったり、雑貨店の店長をしてみたり、漠然と『いつか自分が一国一城の主になれたらな』と思いながら、チャンスを探っていました」。

「ここだ」「これだ」であれよあれよと

そしてある日、「テナント募集」の札がかかったある物件に目が留まりました。国体道路と渡辺通から少し入ったあたり、天神からのアクセスは抜群ながら、静かで落ち着いていて、ビルの1階の駐車場だった場所を自分の好きにいじってもいいという点も気に入り、「ここに店を開こう」と即決。

思い立ってからは即行動。会社に退職の意を伝え、数カ月後には今の店をオープンしました。「どこででも買えるバッグでは意味がないからと博多らしさの象徴である博多織を入れたいと思いつき、これもたまたまなのですが友人が博多織のショップで働いている縁から織元を紹介してもらいました。そこに生地を買い付けに行き、自分がこれからやろうとしていることを伝え、快諾してもらったことで『Karau』というブランドを生み出すことができたんです」。

最初は企画だけして製造はどこかに任せようかとも考えたそうです。しかし、それじゃ思い描くクオリティでのものづくりが難しくなりそうだと感じ、「じゃあもういっそ企画・デザイン・製造・販売とこれまでやったことがあることを全部自分一人でやってみよう」と決意。うまくいくときはトントンと進むと言いますが、まさにそんな典型のような数カ月だったそうです。

レザー×博多織、ありそうでなかった新しさで世代や国を越えて

広々とした空間には、まるでギャラリーに置かれたオブジェのようにバッグが悠々と置かれています。レザーと博多織を使うという軸以外はノールール。トートもあれば、ボディバッグもあり、サイズも形もいろいろです。素材は、京都から取り寄せた馬革やイタリアンレザー、牛革やクロコダイルなども扱います。「Karau」のバッグは使い心地を第一に考え、手触りが柔らかく、軽いものが多いです。

どれも細かい設計図はなく、龍薗さんのアイデアをざっくりとしたデッサンに描き、型紙も起こさず、革や生地を手に取ります。細かいベルトの部分は肩や手にあてながら少しずつ長さや太さを調整し、使う人のことを思い描きながら作ります。自称“せっかち”という龍薗さんは思い立ったらすぐに形にしたくなるそう。定番ものというのはないのですべてが一点物。

「デザイン一筋ではなく、20年以上お客さんと接してきたことは僕の強み。お客さんと話しながらアイデアが浮かんだり、意見を取り入れて新しいものが生み出せたり、常連さんからは『この生地でこんなアイテムが欲しい。このくらいの予算で』とオーダーメイドの相談も多いんです。オープンから1年ですが、作るものの幅もレベルもまだまだ成長しているように思えて、自分でもこれからが楽しみなんです」と笑顔で語ってくれます。

これからの夢を尋ねると、「博多織ということで年輩の人に好んでもらえるかなと思ったんですが、意外や意外10代、20代の子が興味を持ってくれるんです。あとは海外の方がよく来てくれますね。特にヨーロッパ、アメリカなど欧米の人たちが自分用にバッグを、お土産に小物を買って行ってくれます。だから、ちょっと大き過ぎる夢ですが、海外にも1つ店舗を出して、博多の文化を少しでも新しい形で伝えていけたらいいなと思っているんです。そして、またそこで得たインスピレーションから新しいものを作って、日本に逆輸入したい。あとは美術館やギャラリーにも置いてもらえるような芸術性・文化性を持ったものも作っていきたい。道のりはまだまだ遥か遠くですけどね」と照れながらもいつか来るその日を信じる強い気持ちが伝わってきました。

<店舗情報>
「Karau」カラウ
住所:福岡市中央区渡辺通5-5-10 オトフジハウス 1F
電話番号:092-707-0557
営業時間:10:00~20:30
店休日:不定休

<profile>
龍薗 哲也 さん
福岡市博多区生まれ、23歳の頃、バッグの卸商社に就職したことを機にバッグ業界に足を踏み入れ、販売・営業を経験。その後、バッグの企画・デザインなど製造の経験も重ねて、2016年に自らの店「Karau」を開店。1つ1つ手作りするバッグは、すべてレザーと博多織を使って作られたオンリーワンのもの。財布やキーチャームなどの革小物も扱う。スーツケースメーカー「エース」の「HaNT」シリーズやセレクトのバッグも一部販売。

●掲載内容は記事公開時点のもので、変更される場合があります。
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