カルチャー
2018.02.13(Tue)

【フクオカhumanpedia】第20回「おいしさがもたらす笑顔と感動を伝えて」

このエントリーをはてなブックマークに追加

「フクオカhumanpedia」は、古くから商都として栄えてきた福岡の街を支えた、歴史上の著名な人物や、知る人ぞ知る職人たち、現在福岡の各分野で活躍している人々を紹介する連載コラムです。

第20回目に登場するのは、福岡市中央区小笹で料理教室「La Cucinetta」を主宰する三溝清美さん。県外からわざわざ通うファンもいるほど人気の秘密は、おいしさだけじゃないんです。

料理のやり方より楽しさを伝えたくて

三溝さんの料理教室は、福岡市小笹にある自宅兼教室で開かれています。一人暮らしの家よりは広いけれど、ホテルや一流レストランの厨房よりは等身大。訪れる生徒さんにとっては自宅で再現することをイメージしながら学びやすいキッチンです。

「料理は独学なんです。私よりも料理上手な先生はたくさんいると思います」と謙遜する三溝先生。「だけど、せっかく来てくださるからには料理の技術やレシピだけではなく、料理の楽しさを伝えたいと思っています。わざわざ時間を作って来てくださる生徒さんには、感謝してもしきれないくらい。だから私が教えられることは出し惜しみせず伝えたいんです」。

3度目の子育てと教室のオープンで駆け抜けた40代

そんな三溝先生が料理の世界に飛び込んだのは、意外なことに36歳の頃だったそう。ご主人とともに2人の娘さんを育てながら、福岡に引っ越すことになり、それまでの仕事とは違ったことに挑戦しようと「ABCクッキングスタジオ」へ就職。「それ以前は料理とは無縁の事務職の仕事をしていたんです。だけど、子どもの頃から物づくりが好きで、料理や裁縫が得意でした。母親もそんな私を認めて、褒めてくれていたんです。大人になってからも料理やお菓子作りが好きでホームパーティーなんかもよくやっていて、誰かを料理で喜ばせることがとにかく楽しいと感じていました。だから思い切ってそれを仕事にしようと思ったんです」。

講師として勤めた2年間は、やりがいを感じる毎日でした。生徒さんとの関係も良好で、講師としての経験も積み重ねていた頃、第3子を妊娠・出産。「出産の直前まで働きましたが、妊娠中は息子がお腹の中から働いている私を応援してくれているような何とも頼もしい気持ちでした。ずっと一緒に見てくれているような感じで、とっても幸せな10カ月でした。出産するのがちょっと惜しかったぐらい(笑)」。上の2人の娘さんと少し年齢が離れていたり、好きな仕事に就き、心のゆとりがあったせいか、3回目の子育ては新鮮な気持ちで臨めて、自身を大きく成長させてくれたそうです。

「1人目は23歳の時、2人目は26歳の時に産んだんです。本当にかわいくてかわいくて、大切に育ててきたけれど、女の子だったし、私自身も20代で肩に力が入っていたのかな。今思えば『きちんと育てなきゃ』という意識も強かったように思います。3人目は男の子だし、私も30代後半で、いろんな意味でゆとりがあったのか、とにかく細かいことは『まぁいっか』と思えるいい意味での遊びがありました」。40歳を目前に、これからはじまる子育てとの両立も考えて、自らの料理教室を開くことを決意。

背伸びせず踏み出した第一歩

お団子がトレードマーク、明るく元気でいつも笑顔の三溝さんからは想像つきませんが、実は慎重で神経質で人見知りな一面もあるそう。「独立する時もずいぶん悩んだんです。やっていけるかな。生徒さん来てくれるかなって」。背中を押してくれたのはご主人でした。「誰も来ないと思ってやってみれば怖くないんじゃない?」。そう言われて、プレッシャーから解き放たれた三溝さんは、キャンプで使うような簡易テーブルとイスを数脚そろえ、教室をオープンさせました。

「自宅のキッチンで、初期投資は9,800円(笑)。最初から背伸びしようと思えばできなくもなかったけれど、身の丈に合った第一歩でいい、飾らずに自分らしく行こうと思ったんです。まずはご近所にチラシを配ったり、スーパーでポスターを貼らせていただいたり」。その甲斐もあって最初の生徒さんは30人ほどでした。意識していたことは「とにかく楽しむこと」。それが伝わってか、口コミで生徒さんはどんどん増えていきました。

テレビやイベント出演が続き、“予約の取れない”料理教室に

そして2年目に転機が訪れます。地元のテレビ局から「子育てしながら働く女性」というテーマで取材を受けたことをきっかけに、その番組の料理コーナーに出演することに。月曜から金曜までの帯番組でしたが、最初は日曜版にお試しで出て、その後火曜日レギュラーのような形で定期的に出演し、10年以上も担当しました。

「テレビに出ることへのプレッシャーは意外となかったんです。もともと人から良く見られようとか、背伸びしようとしなかったので『失敗したっていいじゃない』という気持ちでいました。そういう風に新しいチャレンジに臆さずに飛び込めたのも、やはり教室と家族のおかげでした。圧倒的に私を守り、包んでくれる帰る場所があったからです。生徒さんや主人、子どもたちがいてくれるからこそ『やってみよう』と思えたんです」。先生の笑顔や華やかなキャラクターはお茶の間でも人気を博し、数々のイベントや雑誌にも登場するように。

「街を歩いていて、あるおばあちゃんから声を掛けていただいたことがあったんですが、『いつもテレビで見てるのよ〜』と手を握って涙を流されたんです。教室と違って、テレビは視聴者の方とお会いする機会があまり多くないのですが、その時ばかりは『私がしていることで喜んでくださる方がいるんだ』という実感があって、心が震えました」。テレビやイベントで見たことをきっかけにブログを検索し、教室に予約を入れる生徒さんも急増。“予約の取れない料理教室”と話題を呼ぶことになりました。

おいしさで笑顔と感動を届け、ついに叶った料理本出版の夢

「メディアに出始めたあたりから、教室の認知度も上がり、5年目ぐらいにアシスタントが入り、キッチンも広くなって、どんどん教室らしくなりました。子どもを育て、アシスタントを育て、生徒さんたちのことも子どもや家族のように愛情を持って接して、私自身も常に愛情を持ちながら人と接していられて、たくさんいろんな経験をさせていただきました」。

そして2013年、先生の夢が叶いました。それは書籍を出版するということ。
「子どもたちに形として残せる本を出したかったんです」。

東京の出版社の編集者の女性がわざわざ福岡に足を運んでくれて、話をする中で「この人となら」と思えたそう。1冊目は、「小さなキッチンで作れるごちそうレシピ―予約が取れない料理教室『La Cucinetta』のとっておきメニュー」。今でも三溝さんの原点である教室で愛されてきた人気の105のレシピを収録。大切な誰かを喜ばせることができる料理とセンスよく見せるコーディネートのアイデアが満載で、料理の楽しさとそこから溢れ出す笑顔に満ちた1冊と評判を呼びました。それから1年も経たずして、2冊目の「“ひと工夫”でテーブルがときめく持ちよりレシピ―予約が取れない料理教室『La Cucinetta』のとびきりメニュー」を出版、2年後の2015年には3冊目となる「シンプル仕込みで“三度美味しい”作りおき―和、洋、中華またはエスニックのごちそうレシピ」を完成させました。

これまでを振り返って今感じることを尋ねると、「最初も今も思いは変わりません。大切な人たちを料理で笑顔にしたい、それだけ。やっぱり何よりも大切にしているのは教室に来てくださる生徒さんです。だけど、テレビやイベントで私を知ってくださった方もたくさんいてくださって、ブログやinstagramで見てくださったり、県外や遠方で教室を訪れることが難しい方には本で喜んでいただけたりもして、それもありがたいことです。独学ですから、常識外れと思われることもあるかもしれません。だけど、それは私の強みでもあります。おいしいものを食べに行ったり、旅行に行ったり、旅先で料理を学んだり、自分の興味が惹かれる方にどんどん動きながらインプットをして、そこでもらった刺激からオリジナルのレシピを考案しています。これからもそんな感動や楽しさを皆さんにお届けできれば」。

福岡は、食の街。自然に恵まれ、食材や料理人など、おいしさ自慢には事欠きません。話題のレストランや有名な飲食店で食べるのもいいけれど、料理教室でおいしさと優しさに触れるという楽しみ方も贅沢です。通常の料理教室は入会金を払って、会員になり、決まった頻度で通うところが多いですが、「La Cucinetta」は遠方からの方でも参加しやすいスタイルで開かれています。ほんの数時間で、思い出ができ、料理の腕が上がり、おいしい店の情報を仕入れたりもできるんですから。(ただし、ご予約はお早めに!)

<教室情報>
「La Cucinetta」
住所:福岡市中央区小笹
電話番号:090-7471-4743
ブログ:http://mitsumizo.exblog.jp/
メール:mitsumizo@mac.com
定休日:不定休

<profile>
三溝 清美 さん
福岡県生まれ、36歳の頃にクッキングスタジオの講師職に就き、料理の世界へ。2005年から自身の教室「La Cucinetta」を主宰し、福岡市小笹でレッスンを開催。テレビやイベントへの出演も多数で、近年は「小さなキッチンで作れるごちそうレシピ」をはじめ、3冊の書籍を出版。プライベートでは2女1男を育て上げたパワフルワーキングママ。

このエントリーをはてなブックマークに追加
関連キーワード